夏の風物詩・バルーンフェスを盛り上げるガールズチーム

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毎年8月に行われる「北海道バルーンフェスティバル」は、2019年で46回目を迎えました。日本で最も歴史のある熱気球の大会で、上士幌町の夏の風物詩として知られています。

全国から熱気球ファンが集まる大会ですが、競技人口の減少や高齢化が進み、現役のパイロットやチーム数の減少が課題となっていました。そんななか、大会を盛り上げるために「ガールズチーム」の設立を目指して動き出したのが早坂彩さんでした。ふるさと納税の寄附金をもとに町が実施する熱気球人材育成事業を活用してパイロット免許を取得し、ガールズチームを結成した早坂さんに、これまでの経緯と熱気球の魅力、今後の活動についてうかがいました。

子どもに向けて体験搭乗も いつも身近に感じていた「熱気球の町」
上士幌町では、小学校の卒業時や記念行事などがある際、係留している熱気球への体験搭乗を実施しています。つまり、町で育ったほとんどの子どもたちは熱気球に乗った経験があり、それだけ身近なものです。

「熱気球は、ふわふわとしたフォルムがかわいくて、夢のある乗り物。朝方、熱気球が実家の上を通過したときは、上昇させるために焚くバーナーの音で起きていたくらいです」と思い出を語る早坂さん。小さい頃から熱気球に親しんできましたが、まさか自分がパイロットになろうとは考えてもみませんでした。


2013年、当時役場で毎年大会の運営に関わっていた早坂さんは、役場の先輩で熱気球のパイロットでもあった関克身さんから「熱気球ファンを増やすため、ガールズチームを作らないか」と提案されました。しかし、設立へ向けて動き出していた2016年2月、関さんは病気を患い帰らぬ人に。早坂さんは「私がやらないと」とその遺志を継ぎ、「熱気球の町」を次の世代へつなげるために、ガールズチームの設立へ向けて走り出しました。

ふるさと納税寄附金でパイロット免許を取得 信頼できる仲間を集めてクラブ結成へ
まずは熱気球のパイロットを目指した早坂さん。ふるさと納税の寄附金を活用した「北海道バルーンフェスティバル関連事業」の熱気球人材育成事業のサポートを受け、パイロットライセンスを取得しました。バーナーの点火に使うロックライターや方向を確認するコンパスなど、個人的な持ち物は自分で用意しましたが、何十万円もするパイロットの受験費用は全額まかなわれたといいます。「ふるさと納税の寄附金を活用した人材育成事業により、免許取得への敷居がだいぶ低くなって本当に助かりました」。


そして、同時に取り組んだのが「メンバー集め」。「他のクラブからの引き抜きはやめよう」と心に決め、「指導してくれる先輩は多いから初心者でもかまわない。一緒に成長していければ」との思いで、友人知人に声をかけ始めました。この時、一番こだわったのは「自分が信頼できる人であること」。早坂さん自身、新米パイロットという不安もあり、メンバーがケガをせず、事故もなくフライトができるよう、責任感を持って仕事ができてテキパキと動ける人を厳選。何度も挫折しそうになりながらメンバーをそろえ、2017年2月、「上士幌ガールズバルーンクラブ」が誕生しました。


非日常を味わい気分転換にも 安全確保にはチームワークが大切
集まったメンバーの職業は、酪農業、保健師、栄養士、町職員とばらばらです。大会が近いと練習時間は増えますが、基本的に夏は大会前と期間中に朝4時~5時、冬は主に着雪してから朝5時〜6時に練習を行い、その後仕事へと向かいます。早坂さんも畑作農家の男性と結婚し、2019年3月に生まれた息子さんの子育てをしながら、農作業と熱気球の練習を両立させています。「夏の大会前は農作業が忙しいし、小麦の刈り取り作業が終わらないと、熱気球の着陸場所が確保できません。気候にも左右されて、いろいろな制約はありますが、熱気球は非日常の世界。練習が気分転換にもなっています。また、フェスでは若い世代を中心に、上は70代の方まで参加していて、老若男女問わずに楽しめるいいスポーツだなと思いますね」と熱気球の魅力を語ります。


熱気球は膨らませた状態で横幅は約15メートル、高さはゴンドラの下から気球の上まで約20メートル。気球自体が100kg近くあり、1本30kgのガスボンベ、25kgのバーナーやその他機材を加えると約300kgにもなります。これらの重い機材を軽トラックに積み込んで運び、熱気球の立ち上げから回収まで、すべて女子だけで行うというから大変です。また、フライト時にはバーナーを焚くため、気球の一部が焦げたり、熱い部品に触って服に穴が開いたりすることもあったそう。「気球が大きいだけに、人がどこにいるのかを把握し、作業することが大事」とリーダーである早坂さんが常に心がけるのは安全第一です。


2018年は道内の和寒町の大会にも参加。2020年には和寒、富良野、十勝川など冬の大会にも参加したいと考えています。ただ、大会は天気次第。地上と上空では風速が全然違い、地上で3m以上吹いたら、ほぼフライトはできません。ブレーキもハンドルもなく、目的地へ飛ばそうとしてもなかなか行けず、風に乗せるために風の向きや速さを読むセンスが必要です。

気球というと、上空から360度景色が眺められて優雅なイメージですが、実際はどうなのでしょうか。「私はまだ景色を楽しむ余裕はないですね。ゴンドラ内では『ここは下降して、次は上昇して』と目まぐるしく操作しています。上空にいる人と地上班は密に連絡を取り合い、『作物があるから着陸できない』などの情報をもらって操縦するため、何よりチームワークが大切です」。

そのチーム力を結集して、2018年の「北海道バルーンフェスティバル」では、見事6位に入賞しています。「運もありますが、思い通りに行かないのが面白いところ。これからも上位入賞を目指して頑張ります」と笑顔で話してくれました。

クラブ活動は熱気球にとどまらず 女性らしい視点を生かして実践
「上士幌ガールズバルーンクラブ」のテーマは「結(ゆい)」。「女子っぽい」と決めたピンクの気球は、町の建材会社からの寄附で購入することができました。メンバーや地域の人たちとの「縁」に感謝し、気球には「結び」の意味を込めてリボンのマークが付いています。愛称は町内で公募して名付けられた「りぼんちゃん」。空に上がった時に「女性らしさ」をアピールしてくれるかわいいカラーとデザインが自慢です。


楽しくクラブ活動を続けられるのは、「練習でも大会後の打ち上げでも女子トークで面白いこと、取り組みたいことを自由に出し合い、できることを楽しんでいるからです」と早坂さん。「ピンク」と「リボン」のつながりから、乳がんの啓発を進める「ピンクリボン運動」も応援しています。2018年のバルーンフェスティバルでは、同クラブのブースを作り、手作りの絵ハガキやピアスを作って販売し、その売り上げを乳がん検診の啓蒙活動団体へ寄附しました。女子チームとして「女性の元気と幸せを応援したい」と考えたこと、乳がんの受診率アップは上士幌町も推進しているので協力したいと思ったことから実施したそう。「これからも女性らしい視点でクラブ活動に取り組みたい」と話します。

結びつきと応援に感謝して 次世代へつなぐ「熱気球の町」
女子だけの熱気球クラブは大学の部活動ではありますが、社会人としては全国唯一のクラブです。ふるさと納税の寄附金を活用した人材育成支援のおかげで、女性パイロットが続々と登場している昨今、熱気球大会を46年も続けた歴史を誇る上士幌町の底力を感じます。


「数年前は町の女性パイロットは私だけでした。今は女性パイロットが増え、それぞれに成長していることが楽しいし、うれしい。ふるさと納税に寄附してくださった方々と町には本当に感謝しています」。

同クラブのテーマである「結」に込めたように、町やふるさと納税寄附者、メンバーの家族、地域の皆さん、地元企業や農家の方々など、多くの結びつきや応援があってこそ活動ができると考えている早坂さん。今後もガールズチームとして熱気球の大会に参加し、発信を続けることで「道内外の多くの方が『上士幌』や『熱気球』を知る一つのきっかけになれば」と、「熱気球の町」を次世代につなげる夢を追い続けます。