全国を転々と巡り採取する熟成した国産天然はちみつ

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1955年に創業し、上士幌町の特産品として長く親しまれてきた「十勝養蜂園」のはちみつ。高い品質や味の良さから「ふるさと納税」の返礼品に選ばれ、現代のヘルシー志向にもマッチしてファンを増やしています。先代から引き継いだ養蜂の技術を守り、1年中国内を移動しながら採蜜している代表の斉藤直也さんに、濃厚でおいしいはちみつが取れる理由、養蜂の魅力や今後の活動について伺いました。


健康で元気なミツバチを育てることが基本
はちみつ作りにはミツバチの存在が欠かせません。全国でミツバチの減少が問題視されるなか、十勝養蜂園では健康で元気なミツバチを育てるために、エサや飼育環境を試行錯誤してきました。

「ある時、ぬかびら源泉郷の温泉水をミツバチや鹿が飲んでいるのを見たんです。タライに温泉水をためてみると、ミツバチが飲みにやってきて、その後、健康なハチが生まれるようになりました」。ミツバチにとって必要なものが温泉水にあるとわかり、さっそく他の養蜂家にも伝えたそうです。

「経験から得た情報を自分だけで使っていたら、ミツバチはいなくなり、養蜂自体が成り立たなくなりますから」と話す斉藤さん。実は十勝養蜂組合組合長を務めるだけでなく、北海道養蜂協会副会長、北海道養蜂農業協同組合副組合長としても活動する立場にあり、常に養蜂業の未来を見据えています。


花々を求めてミツバチとともに全国へ
十勝養蜂園のはちみつは、全国各地を転々と巡る「転地養蜂」と呼ばれる方法で採取されます。季節ごとに移動するのは、ミツバチにとって良好な環境と豊富な蜜源(=花)を求め、はちみつの収量を増やすためです。

冬には三重県に移動し、春から約1ヵ月の間隔で岐阜県、山形県、岩手県、福島県へ。そして道内に入って三笠市、十勝管内の新得町、上士幌町などをミツバチの巣箱とともに巡り、その場その場で採取します。山形や岩手はトチ、岐阜は桜、三笠市はアカシヤ、十勝管内は主にクローバーや菩提樹(ぼだいじゅ)。季節の変わり目などでいろいろな花が混ざる場合は「百花(ひゃっか)」と名付けられます。地域によって蜜を取る花の種類が違うので、味や香りの変化を楽しめるのが、天然はちみつならではの醍醐味でしょう。


移動の際は、はちみつを搾る専用車と、ミツバチの巣箱を運ぶ8トントラックが並走します。ミツバチは巣箱に絶えず風を当てて、温度が上がり過ぎないよう配慮しなければ死んでしまうほどデリケート。路面の振動を吸収するエアーサスペンションと冷房を搭載したトラックを走らせ、細心の注意を払います。あまり長時間走るのもミツバチには負担になるため、移動はすべて高速道路を利用。コストがかかるのも悩みどころです。


「ミツバチの輸送は夜中に行い、昼間は飼育や採蜜などの作業があるので、寝る時間がなかなか取れません。3万匹以上が暮らす3段重ねの巣箱は約60kgあり、それを運ぶのは重労働。しかも、はちみつ作りは一部遠心分離機を使いますが、ほぼ手作業です」。そんな養蜂家の仕事の厳しさを説明してくれた斉藤さんですが、どこか楽しそうな表情も見せます。この仕事の面白みはどういうところにあるのでしょうか。

「本物のはちみつ」が認められ大きな反響に
現在、国産はちみつの割合は全体の20%に満たないと言われます。外国産のはちみつの中には、糖度が低いもの、人工的な力で蒸発させて糖度を上げるものもありますが、それではせっかくのビタミンや風味が飛んでしまいます。

「通常、日本養蜂協会の基準では、糖度が78度以上あれば国産天然はちみつとして認められます。でも、当社のはちみつは手間をかけ、80度以上の糖度を目指しています。糖度を上げるにはミツバチを巣に長くとどめ、羽を動かして水分を蒸発させる活動を促すことが必要です。効率は落ち、全体的な収量は減りますが、水分量を抑えて酸化を防げば味は変化しませんし、熟成した本物のはちみつが出来上がります」と長年続けてきた手法に自信をうかがわせます。

この高い糖度と、はちみつがもともと持っている抗菌作用により雑菌の繁殖を防ぐことから、「一応風味は落ちるので2年の賞味期限を設けていますが、本物のはちみつは腐りません(※)」ときっぱり。さらに「うちは製造・販売も手掛けますが、あくまでも生産者。生産者価格で皆さまに提供しています」と言い、お手頃な価格も人気の理由の一つとなっています。

※天然はちみつに限る(パンくずや水分の混入により、カビ等が発生する場合があります)


さらに、ふるさと納税の返礼品に選ばれたことで需要が伸び、「ここのはちみつじゃないと食べられない」と言ってくださるお客様が増え、オンラインショップでは売り切れ商品が続出するなど、大きな反響をもたらしました。「先代から受け継いだ味を崩したくなくて、なかなか量産できず、申し訳ないですけどね」と斉藤さん。大きな自信とやりがいを胸に、本物のはちみつを作り続けます。

「自然に寄り添う仕事=養蜂」の魅力を若い世代に伝えたい
「最近は、自然に寄り添う仕事に魅力を感じる若い世代が増え、養蜂を勉強したいという若者も現れてきました。自然の恵みであるはちみつを絶やさないためにも、惜しみなく技術や知識を教え、人材を育てていきたいです」と明るい展望を語る斉藤さん。今後は後継者育成も視野に、養蜂を広く伝える活動も進めます。

その養蜂の魅力の一端を垣間見たいと思い、今回の取材では特別に、養蜂の様子を見学させていただきました。現場は、十勝養蜂園が運営し、息子さんの斉藤達也さんがシェフを務める「レストラントバチ」の敷地内です。

斉藤さんはまず、麻袋を燃やして燻煙器にセット。煙を吹きかけるとミツバチはおとなしくなるそうです。巣箱を開けて取り出した巣には蜜がたっぷり。苦労して世話をしたミツバチからの贈り物であり、この収量が多ければ喜びもひとしおでしょう。「食べてみていいよ」と言われ、そっとすくってなめると、香り豊かで甘く濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がります。

「ミツバチは優しく扱えば、優しくなるんですよ」と笑う斉藤さんからは、自然や生き物への深い愛情が感じられました。


ミツバチたちが花から花へと飛び回り、せっせと蜜を集めてできた自然の恵み「はちみつ」。感謝の気持ちとともに味わいたいですね。